VVtuber活動記

日々のバーチャルバーチャル活動を記録します

大きい方って?身長は?年収はいくら?小さい方はあるの?調べてみました!

「お先に大きい方から」
そう言ってゴリラの店員は糞便をこちらに投げつけ、不機嫌そうにバックヤードへ戻っていった。隣のレジカウンターには「アメリカンショートヘア」と書かれた名札を下げたキジトラ猫が寝そべっており、首をもたげて胡散臭そうにこちらを眺めていた。その視線は排泄物に塗れた僕の上半身に集中しているように感じた。
「……お釣りは?」
僕は動揺を抑えながらキジトラに聞いた。キジトラはただ目を細めて睨めつけるだけで何も言わなかった。猫なのだから当然だ。猫が喋るのは魔術的な職業に従事する少女の傍にいる場合か、何らかの妖術もしくは特殊能力の影響下にある場合、卓抜した技術力によって開発された翻訳機を得た場合等、限られた状況下に限られる。
レジスターの客面液晶に表示された金額を前にして僕は途方に暮れた。ゴリラに詰め寄ったところで腕力で勝てるはずもなく、猫に金銭による補償を迫ったところでそもそも貨幣の概念を理解しているかも定かでない。手詰まりを悟らざるを得なかった。
僕は再び陳列棚に戻り、ボディシートを取ってキジトラ店員に持っていった。こちらには見向きもせず、腕枕に顎を乗せている。
「すみません」
猫は尻尾だけを左右に揺らした。
僕は財布から百円玉を4枚取り出して猫の前に置いた。猫は少しだけ目を開けると、カウンターの小銭の臭いを確かめていたが、まもなくして興味なさげに再びまぶたを閉じた。いらないから二度と来ないでくれ、とでも言いたげである。アメリカンショートヘアを自称するあたり、己に宿した高潔な魂が穢れと交わることを良しとしないのだろう。とはいえ一消費者として対価なしに商品を持ち帰るのは憚られる。
結局、僕は9502円と70円の損害とともにコンビニエンスストアを後にした。
 
店の軒下で腕に付着した汚物を拭っていると、行き交う人々は横目で怪訝そうに僕を見た。たまたま入ったコンビニの店員がゴリラで、そのゴリラがたまたま糞を投げるタイプだったのだから仕方ないだろ、と僕は心の内で弁明した。
当初の目的であった昼食のおろし竜田弁当(すだちぽん酢)はレジ袋の中で所在なさげに鎮座している。おろし竜田弁当(すだちぽん酢)には申し訳なく思うが僕の食欲は気がつけば消え去ってしまっていた。
 
一通り身体の汚れは拭き取っても、衣服についたそれは依然としてその臭気を遺憾なく発している。繊維と繊維の間隙を埋めるように深く入り込んだ汚物は容易には拭い去ることなどできないだろう。行き先としては洗濯機よりもゴミ箱のほうが適切かもな、と僕は嘆息してゆらゆらと帰路についた。